大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和61年(ラ)95号 決定 1987年1月14日

抗告人

緒方春樹

右代理人弁護士

三代英昭

佐藤進

主文

一  原決定を取り消す。

二  本件競落はこれを許さない。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙即時抗告申立書及び即時抗告申立理由補充書記載のとおりである。

二抗告人は、本件競売期日において最高価競買申出をしたにかかわらず最高価入札人として呼び上げられなかつたが、右は担当執行官において競買申出の保証の額が最低競売価額の一〇分の二と定められた特別売却条件を各人に告知すべき競売手続上の義務を怠つた違法に基づくものである旨主張するから、この点について按ずるに、一件記録によれば、別紙即時抗告申立理由補充書一、二記載の各事実及び担当執行官が抗告人に対して指定した入札書は昭和五五年一〇月一日の民事執行法施行前のいわゆる旧法事件の入札において一般的に使用される入札書であつて、その保証金額欄には「上記金額(入札価額)の一割」と、その注意事項欄には5として「入札者は入札価額の一割相当の保証金をこの封筒に入れ封をして執行官に提出して下さい。在中金額が保証金額に不足する場合は入札は無効です。」とそれぞれ不動文字で印刷記載されていること、担当執行官は入札催告に当たり入札書の保証金額欄を特別売却条件どおりに訂正することなく、また特別売却条件を口頭告知することなく右入札書を抗告人に交付して競買申出を催告したこと、その結果入札価額を金八〇〇〇万円と記入しその一割相当額である金八〇〇万円の保証金を提出したにとどまつた抗告人は保証金不足を理由に最高価入札人として呼び上げられず入札価額を金七三六七万円と記入した次順位競買申出人である内山ビル株式会社が最高価競買人として呼び上げられ、当日の競売手続を終了したことが認められる。

右認定の事実によれば、昭和六一年一一月六日午前一〇時の入札期日において抗告人が最高価入札人として呼上げを得なかつた原因は、担当執行官において旧民訴法(以下条文のみの記載は全て旧民訴法である。)六六三条に違反し保証金額に関する特別売却条件を抗告人に告知しなかつた手続の違法に基づくものであることが明らかである。もつとも、担当執行官作成に係る当日の不動産競売調書によれば「執行官は執行記録を各人の閲覧に供して、売却条件を告知し、競買価額の申出を催告した。」旨の記載があるが、競売手続を主宰した執行官が自ら作成する不動産競売調書は口頭弁論を主宰して調書の正確性を確保した裁判官と立会書記官が連署すべきものとされている口頭弁論調書と、その性質及び作成方式において著しく異なり、口頭弁論調書に関する民訴法一四七条の準用はなく、したがつて競売手続に関する規定の遵守については同調書のみによることなく反証が許されるものと解するのが相当であるところからすれば、特別売却条件の不告知が前認定のとおりである以上、右不動産競売調書の記載にかかわらず、本件競売手続が違法であることの認定を妨げるものではなく、また入札払競売及び競落期日公告の特別売却条件の記載が正確である事実や他に特別売却条件所定の保証金額を提出した入札人が現に存在する事実等は、本件入札払競売期日における特別売却条件不告知の瑕疵を治癒すべき事情に当たらないと解するのが相当である。

ところで、不動産競売(入札)において法定又は特別の売却条件に抵触して競買が行われた場合は、利害関係人において競落許可につき異議を述べる権利を有することはもとより競落許可により損失を被るべき利害関係人は抗告により競落の不許を求める利益を有する(六七一条一項、六七二条三号前段、六八〇条一項)が、本件のように執行官の過誤により入札人に対し特別売却条件を告知しないまま入札催告がなされて競買が行われた場合も右の六七二条三項前段の異議事由に該当すると解すべきところ、右の利害関係人には六四八条所定の競売手続におけるいわゆる利害関係人のみならず、本件抗告人のように、形式的には最高価入札人として呼び上げられなかつたが、自らが適法な又は実質的な最高価入札人であると主張する入札人も当然これに含まれると解するのが相当であり、また、右の異議を述べる方法は、利害関係人において必ず競落期日に出頭したうえ口頭で異議を陳述することを必要とするものではなく、執行裁判所の競落に関する決定以前に書面をもつて異議の意思表示をすることで足りると解すべく、これを本件についてみるに、記録によれば、原決定が言い渡された昭和六一年一一月一三日の競落期日には最高価競買人及び利害関係人は全て不出頭であつたが、執行裁判所に対し、右言渡し前である同月七日抗告人から「執行異議申立書」と題する書面が、同月一三日抗告代理人から「異議申立理由補充書」と題する書面がそれぞれ提出されており競落許可について抗告人の異議の意思表示がなされていることが認められるところからすれば、執行裁判所は右各書面の提出をもつて六七一条一項の陳述があつたものとして取り扱うべきものであり、少なくとも六七四条二項の適用において抗告人が競売(入札払)手続の続行を承認しない旨の意思を表示したものと認めるのが相当である。

してみれば、申立外内山ビル株式会社を最高価入札人と定めた担当執行官の措置は特別売却条件を告知しなかつた点において六六三条に違反しており、競落許可について六七二条三号の異議事由に基づき同申立外会社に対する競落を不許とすべきにかかわらず、これを許可した原決定は不当であり、本件抗告は理由がある。

三よつて、原決定を取り消したうえ、六七四条一項に則り本件競落を許さないこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官塩田駿一 裁判官鍋山健 裁判官最上侃二)

抗告の趣旨

原決定を取消し、更に相当の裁判を求める。

抗告の理由

抗告人は本件不動産の正当な最高価競買申出人であるが、本件競売期日においては執行官によつて売却条件が誤つて告知されており、正当な最高価競買人の呼上をしないで、競売期日を終了した違法があるので、次順位競買人である内山ビル株式会社に対する競落は不許可とすべきである。

よつて、抗告の趣旨記載の裁判を求める。

抗告の理由(補充)

一 本件競売手続は、昭和五五年四月一一日申立にかかるものであるから、旧競売法及び民事訴訟法の規定が適用されるものであるところ、特別売却条件として一括競売及び競売申出の保証の額は、最低競売価額の一〇分の二とする旨定められて、競売期日(入札払競売)が昭和六一年一一月六日午前一〇時、競落期日が昭和六一年一一月一三日午前一〇時と公告された。

二 本件抗告人は、昭和六一年一一月六日午前一〇時の競売期日に入札に当たり、競売手続担当執行官が指定した入札書及び封筒に、入札価額を金八、〇〇〇万円と記入し、保証金八〇〇万円を右封筒に入れて執行官に提出して、競売物件の買受申込をしたところ、執行官は、本件抗告人には、所定の立保証金額の提供がないとの理由で、次順位買受申出人を最高価競買人と定めて、競売手続を終了した。

三 しかしながら、本件競売手続は、以下のとおり、旧民事訴訟法第六七二条第七号、第八号(民事執行法第七一条六号、七号)に該当するものであり、売却不許可の決定をなすべきものである。

(一) 本件競売手続における入札は、執行官が指定した入札書及び封筒に必要事項記入の上、保証金を封入してなすべき旨告知された。

(二) 右入札書の表面入札価額欄の下、保証金額欄には「上記金額(入札価額)の一割」なる字句が印刷してあり、なお裏面注意事項欄5項には「入札者は入札価額の一割相当の保証金をこの封筒に入れ封をして執行官に提出して下さい。在中金額が保証金額に不足する場合は、入札は無効です。」との字句が印刷してある。

(三) 執行官は、本件入札催告に当り、競売終局迄の間に、特別売却条件について告知すべきであるのに(旧民事訴訟法第六六三条)これを告知せず、入札書の保証金額の記載が誤りであることを説明しなかつた。

(四) 本件抗告人は、本件入札に当り、入札書の注意事項に従い、右入札書の入札価額欄に金八、〇〇〇万円と記入し、保証金額欄の記載にしたがつて右入札価額の一割の金八〇〇万円を封筒に入れて、執行官に提出して、競買申出をなした。

(五) 本件抗告人は、競売期日の前日に、福岡地方裁判所小倉支部執行係書記官に対し、本件競売の方法について予め質問したところ、入札による売却の際に、入札価額の一割相当の保証金を提供すれば足りる旨の教示をうけていたので、前記入札書の注意事項及び保証金額欄の記載に疑いをはさまなかつた。

(六) 以上によつて明らかなとおり、本件競売期日において執行官によつて売却条件が誤つて告知されたものであり、売却手続に重大な誤りがあるというべきであるから、本件抗告人の入札価額より低額な金七、三六七万円の入札価額をもつてした次順位競買申出人である内山ビル株式会社に対する競落は不許可とすべきものである。

四 右につき不動産競売調書には不動文字で売却条件を告知した旨記載されているが、不動産競売調書には民事訴訟法第一四七条の準用はなく、反証が許されるべきであり(昭和三七年二月一六日広島高裁岡山支部決定、高裁民集一五巻二号一〇八頁)、事実は前項(一)、(二)、(三)記載のとおり本件競売においては売却条件不告知の重大な違法があつたものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例